整形外科とは
整形外科の守備範囲は運動機能に関する身体と神経の外傷と疾患(脳神経を除く)です。整形外科専門医は、運動器の病気やケガを治療し、健康を守る専門家です。運動器とは身体運動に関わる骨、関節、靱帯、筋肉、脊椎脊髄、手足の神経・血管などをひとまとめにした呼び方です。整形外科専門医は、常に最新の医学を取り入れ、質の高い医療を皆様に提供するように努めています。
当院で扱うのは、主に腰痛、肩こり、膝関節痛、捻挫、骨折、骨粗鬆症などの疾患です。
その対象は脊椎(脊柱)・脊髄、骨盤、上肢(肩、肘、手、手指)、下肢(股、膝、足、足指)など広範囲に及びます。新生児、小児、学童から成人、高齢者まで全ての年齢層が対象になり、その内容は多様で治療の必要な患者数が極めて多いのが整形外科の特徴です。
運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動きません。
また、複数の運動器が同時に障害を受けることもあります。その他、変性疾患・先天性疾患・骨系統疾患・炎症性疾患・関節リウマチ・腫瘍(骨・関節・筋肉)なども扱っています。
整形外科は主として、運動器の疾患を扱う診療科です。スポーツ傷害や交通外傷、労働災害などによる外傷のほとんどは整形外科の疾患です。
切創、挫創などのケガ、打撲、捻挫、骨折、脱臼、関節損傷、脊髄損傷、開放骨折、切断指・肢などは、整形外科が扱います。
整形外科が扱わない外傷には、頭部・顔面外傷や心臓・肺損傷、腹部外傷などの臓器外傷、泌尿・生殖器損傷などがあります。
そして整形外科の治療は、単に病気やケガを治すだけでなく、運動機能を元通りに回復させることを目的とします。不幸にして、運動機能の回復が十分に得られなかったとしても、残った機能を最大限に活用して、元の状態に出来るだけ近く機能を回復させることも、整形外科の大きな役割です。勿論、この際リハビリテーション医療との協力が必要なこともあります。また運動機能の障害だけでなく、痛みを主とする疾患(慢性腰痛、神経痛、関節炎、外傷、神経障害性疼痛など)の治療を行なうのも、整形外科の守備範囲の仕事です。
整形外科では、様々な治療を行います。
整形外科の治療は手術による場合だけでなく、手術をしない保存的な治療も多く行なわれます。当院のような入院の設備や、手術室などを持たない整形外科での治療は、多くの場合保存的治療と呼ばれています。整形外科の手術には、さまざまな種類があります。例えば、次のような手術があります。脊髄・脊椎に対する手術・神経の手術・腱の手術・骨の手術(骨接合術など)関節の手術(人工関節置換術など)・腫瘍の摘出等々があり、時には切断された指や手足などの再接合術も行なわれることがあります。
整形外科の適応疾患
外傷(打撲、捻挫、挫傷などの処置、切り傷の縫合、骨折、脱臼、やけど)
腰痛症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症、坐骨神経痛
肩こり、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)、頚椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア
変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性肘関節症、変形性肩関節症
特発性大腿骨頭壊死症、特発性膝関節骨壊死症
手指の変形性関節症(へバーデン結節、プシャール結節)
ばね指、手関節狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)、手根管症候群
骨粗鬆症、痛風、関節リウマチ、偽痛風、掌蹠膿疱症や乾癬に伴う関節炎
炎症性粉瘤、ガングリオン、脂肪腫、ベーカー嚢腫、滑液包炎
スポーツ障害(野球肩、野球肘、テニス肘、ゴルフ肘、腰椎分離症、膝半月板損傷、疲労骨折、靱帯損傷、腱板損傷、肉ばなれ、オスグッド病、アキレス腱断裂等)
小児整形外科疾患(先天性股関節脱臼、発育性股関節形成不全、先天性内反足、O脚・X脚、小児の骨折、骨系統疾患、特発性脊椎側弯症等
診断・治療
骨折はX線と症状で診断します。X線でも判りにくい骨折もありますので場合によってはCTやMRIによって診断することもあります。治療は主に副木やギプスで固定し保存的に治療しますが、必要があれば入院設備のある病院を紹介して、手術などで治療します。その後のリハビリも重要ですので、退院後は当院で理学療法士によるリハビリを行います。
脱臼、捻挫も適切な固定、リハビリを行わないと、後遺症が残る場合もあります。
このような不都合なことが起こらないように整形外科専門医による治療が必要になります。子供では折れた骨が曲がったままで成長したりしないように、大人では早く仕事が出来るように、老人では寝たきりにならないように治療することが重要です。
代表的な疾患について症状や治療について説明いたします。
全ては載せられませんので、公益社団法人日本整形外科学会、一般社団法人日本臨床整形外科学会、一般社団法人日本手の外科学会、公益財団法人骨粗鬆財団、一般社団法人日本骨粗鬆学会などのホームページもご参照ください。
腰椎椎間板ヘルニア
加齢や悪い姿勢での動作などにより、椎間板の一部が出てきて神経を圧迫することにより、下肢に痛みやしびれの症状が出ます。
痛みが強い時にはコルセットで腰部を固定したり、消炎鎮痛薬や神経障害性疼痛治療薬を内服したり、神経ブロック(仙骨硬膜外ブロック、腰部硬膜外ブロック神経根ブロックなど)を行い、痛みをやわらげます。痛みが軽くなれば、骨盤牽引や運動療法を行います。これらの方法で症状が改善せず、社会生活に多大な支障がある場合、下肢筋力の低下が強くなり歩行困難になっている場合は手術をお勧めすることもあります。
手術法は近年では内視鏡を使った方法など進歩しておりますが、患者さんと相談して信頼している脊椎外科医を紹介させていただきます。
腰部脊柱管狭窄症
加齢により、背骨が変形したり、椎間板がふくらんだり、靭帯が厚くなり神経の通る脊柱管が狭くなります。馬尾神経が圧迫され、神経の血流が低下して、太ももや膝から下にしびれや痛みが出てきます。症状が進むと歩行に支障が出現し、数分歩くと立ち止まったり、その場にしゃがんだり座ったりして休むと歩けるようになる間欠跛行が出現することがあります。
リハビリテーション、コルセット、神経ブロックや神経の血行を良くする薬で症状が改善することもあります。椎間板ヘルニアと同様に、日常生活に支障が出てくる場合は手術を行うこともあります。
頚椎症(変形性頚椎症・頸椎椎間板ヘルニア
・頚椎症性神経根症・頸椎症性脊髄症)
老化などにより椎間板の変性や頸椎の変形が進むと、脊柱管(脊髄の通り道)や椎間孔(肩や上肢につながっている神経根の出口)が狭くなり、脊髄や神経根を圧迫して、頸や肩にかけての痛みや上肢のシビレや痛みが出現し、握力が低下したり肩が上がらなくなったり、歩行にも支障が出ることがあります。また注意しなければいけないのは、ずっと肩こりだと思っていたら頸椎椎間板ヘルニアや狭心症、脊髄腫瘍、肺ガン、胃ガンの転移が原因であったこともありました。
姿勢の悪さや頚椎に負担のかかる運動などがこの変形を早める可能性があります。
治療については、基本的には腰椎椎間板ヘルニアなどに準じています。
五十肩(肩関節周囲炎)
症状として、肩関節が痛み、関節の動きが悪くなります(運動制限)
原因としては関節を構成する骨、軟骨、靱帯や腱などの老化だといわれています。中年以降、特に50歳代に多くみられ、その病態は様々です。
五十肩は自然に治ることもありますが、放置すると日常生活が不自由になるばかりでなく、関節が癒着して動かなくなることもあります。
痛みが強い時期は安静を保ち、消炎鎮痛剤の内服、注射などをします。
痛みが多少和らいで来たら、温熱療法や運動療法などのリハビリを開始します。
変形性膝関節症
(変形性股関節症、手指変形性関節症、変形性足関節症など)
変形性膝関節症とは、主に加齢の影響で膝の軟骨がすり減り、膝に強い痛みを生じる病気です。病気が進行すると痛みは強くなる傾向にあり、日常生活に大きな影響を及ぼすようになります。痛みが長く続くときや、歩き方の違和感を指摘されたときは、できるだけ早く病院で相談することが大切です。変形性膝関節症とは、膝の関節軟骨がすり減って強い痛みを生じる病気です。
関節の軟骨は、非常に摩擦の少ない部分です。人間の体は、軟骨が存在することによってなめらかに動きます。何らかの原因で軟骨がすり減ると、関節の動きが悪くなり、さまざまな症状が現れます。歩行するためにもっとも重要な関節である、膝関節の軟骨がすり減って、痛みなどを生じる病気のことを、変形性膝関節症といいます。変形性膝関節症が進行すると膝に強い痛みが生じるため、患者さんは歩くことが困難になっていきます。
変形性膝関節症は、年齢的には、50歳を過ぎた頃から徐々に発症します。また、圧倒的に女性に多い病気だといわれています。なぜ女性のほうが多いのか、その理由としてはさまざまな仮説が考えられています。男性よりも筋力が弱いことや、体重が増えやすいこと、運動量の少ないことなどが挙げられます。しかし、変形性膝関節症が女性に多い理由は、まだはっきりとは分かっていません。変形性膝関節症の原因として、加齢、肥満やO脚、怪我や病気が挙げられます。この中でもっとも大きな要素は加齢で、軟骨をつくる細胞(軟骨細胞)のはたらきが加齢と共に衰えることが主な原因といわれています。
軟骨の中では、古い軟骨をこわして新しい軟骨をつくる新陳代謝が常に行われています。しかし、軟骨細胞のはたらきが衰えると新しい軟骨がつくられにくくなり、新陳代謝のバランスが崩れてしまいます。すると、軟骨をこわす力のほうが優勢になり、軟骨の量が徐々に減ってしまいます。また、軟骨は血流が乏しい組織であり、血流のある組織と比べると、新陳代謝の行われるスピードは非常にゆっくりです。そのため、一度すり減った軟骨は再生することなく、変形性膝関節症は少しずつ進行していきます。
変形性膝関節症の症状は、主に膝の痛みです。発症初期の場合、関節を動かし始めるときだけに痛みがあり、少し動かしているうちに痛みは軽くなっていきます。この症状について、患者さんの中には「関節に油が回って痛みがとれるようだ」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
中期は、歩行時の痛み、膝の腫れ、膝が曲げられない状態
症状が進行すると痛みが取れにくくなり、歩いているときにはずっと痛みが出ている状態になります。そして、関節炎を起こし、関節の中に存在する液体が普段よりも多く溜まってくる「関節水腫」が引き起こされると、膝の腫れを生じます。
また、関節が硬くなって可動域(動かせる範囲)が狭くなります。そのため、膝がまっすぐに伸びない、正座ができない、しゃがんだときに膝が曲がり切らない、階段の上り下りが困難といった状態になります。患者さんは、たとえば洋式のトイレは問題なく使えても、和式のトイレは膝が曲げられないので使えないとおっしゃる方が多いです。
末期は、膝を動かさなくても痛む状態に症状が進行して末期の状態になると、膝が曲がりにくいという症状がさらに進みます。そして、それまでは休んでいるときには痛みは出ないという状態だったのが、夜寝ていても時々痛みで目が覚めるというように、安息時にも症状が出るようになります。
関節水腫の程度については個人差があります。症状が進んでも意外と関節液は溜まらない、膝は腫れないという患者さんもいらっしゃいます。
先にお話ししたように、変形性膝関節症は、原因も症状も人によってさまざまです。主に痛みと歩行がつらいということになりますが、症状には個人差があります。
変形性膝関節症は進行すると手術が必要に
変形性膝関節症を診断するためには、基本的にはレントゲン(X線)検査を行います。すり減った軟骨だけでなく、関節の部分に問題がないか、ほかの病気の可能性がないかといったことをさらに詳しく調べる場合は、MRI検査を行うこともあります。
変形性膝関節症では、一度傷ついた軟骨を元に戻すことは困難であるといわれています。そのため、軟骨が傷んでいてもそれを補うような治療が中心となり、運動療法、薬物療法、装具療法が行われます。これらの治療では痛みが抑えられず、歩行が困難な場合などには、手術療法を検討します。
変形性膝関節症と診断されたら、まずは運動療法を行います。運動療法の中でも一般的によく行われているのがSLR訓練です。足をまっすぐに伸ばして、5秒間持ち上げて下ろすことを繰り返し、足のももの筋肉を強化する訓練です。筋力を鍛えることで、膝関節にかかる負担を減らすことができます。
SLR訓練以外にも、股関節の周りの筋肉を鍛える筋力トレーニングを行うことも効果的です。また、単純に歩くことも、筋力を維持するためには大事なことです。変形性膝関節症の患者さんには、できるだけ歩いていただくようにお話ししています。
痛みがある場合はプールや自転車を
痛みが強くてあまり歩けないという患者さんの場合は、プールで歩くことをおすすめします。プールの中では体重がかかりにくく、少し楽に歩けるようになります。
そのほか、自転車も膝の運動になります。エアロバイクをおすすめすることもあります。
消炎鎮痛剤
運動療法に続いて、さまざまな薬剤を処方します。炎症を抑えて痛みをとるために、消炎鎮痛剤を使用します。湿布薬、塗り薬を使うこともあります。痛みが強いときには、麻薬系の鎮痛剤や、抗うつ薬を使うこともあります。
関節内注入
湿布薬や飲み薬などを使用しても痛みが充分にとれない場合、関節の中に注射をする「関節内注射」という方法があります。注射として用いられるのは、ヒアルロン酸やステロイドという薬剤です。
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸は軟骨の成分でもあり、潤滑剤のようなはたらきを持っています。関節内に注入することで、関節の表面をなめらかにする作用があります。1週間ごとに1回、連続5回程度の注射を行い、その後は効果をみながらさらに継続したり、いったん休んでみて症状が出たら再開したりと、患者さんによって注射の回数は増減します。
ステロイド
ステロイドは、強力な抗炎症作用を持ち、関節炎をしっかりと抑えることができます。ただし、過度な使用は関節を傷めてしまう可能性があるため、継続して使用すべきではなく、使い方には十分な注意が必要とされています。
PRP(多血小板血漿)による治療(当院では行っておりません)
血小板の成分がたくさん含まれている「PRP(多血小板血漿)」を用いた先進的な治療法が、メディアなどで話題になっています。自分自身の血液を採血して加工し、関節の軟骨を治す成分を凝縮したものを関節に注射するという方法です。実際にどれくらいの効果があるのかというところは未知数ですが、変形性膝関節症の痛みを軽減する治療法として期待が寄せられています(2019年3月現在は自由診療であり、標準的な費用は注射1回につき30,000円前後です)。
変形性膝関節症の装具療法
サポーター
運動療法や薬物療法のほかにも、膝関節の負担を軽減する治療法として、装具療法があります。着脱が簡単なものでは、膝の関節を支えるサポーターをおすすめします。市販のサポーターを使っている患者さんも多いです。
足底板
整形外科では、必要な場合には「足底板」と呼ばれる装具を作製し、装具療法を行います。足底板とは、靴に入れて使う医療用の中敷きのことです。外側が少し盛り上がった形になっている足底板は、O脚をX脚へ矯正するはたらきがあります。O脚は膝の内側に負担がかかりやすいため、少しX脚に矯正することで、内側に偏っている負荷を分散する効果があります。
足底板は、変形の初期の患者さんにはとても効果的です。使っているうちに、内側に集中していた負担が分散されて、少しずつ痛みが楽になっていきます。
変形性膝関節症の手術療法
変形性膝関節症の手術は3種類
運動療法、薬物療法、装具療法では症状を抑えられず、変形性膝関節症が進行した場合は、手術を検討します。手術の種類は、症状の程度、患者さんの年齢、どの程度までしっかりと治療したいかといったことを考慮したうえで、選択されます。
基本的には、症状が軽い患者さんは、膝への影響が少ない手術を実施します。膝への影響が少ない手術から順番に、関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術という3種類の方法があります。
・関節鏡手術…関節の傷んでいる部分を削って平らにする手術。
・高位脛骨骨切り術 骨を切ってO脚からX脚に矯正する手術。
・人工膝関節置換術…人工関節に置き換える手術。
関節鏡手術
関節鏡手術は、内視鏡のひとつである関節鏡を挿入して行う手術です。関節のでこぼこしている傷んだ部分を平らに削って、表面をなだらかにし、関節を動かすときに引っかかりがないようにします。
すり減った軟骨を増やすような手術ではないため、根本的な治療にはなりません。骨切り術や人工関節の手術をするにはまだ早いと思われる患者さんで、膝の変形がそこまで悪化していない場合、進行を少しでも遅らせる目的で関節鏡手術を選択することがあります。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、膝の下のほうの「脛骨」という骨を切って、関節の内側を開く、もしくは関節の外側をくっつけるというどちらかの方法をとり、O脚をX脚に矯正する手術です。
O脚では関節の内側に体重が集中します。そこで、高位脛骨骨切り術によりO脚をX脚に矯正し、まだ軟骨が充分に残っている関節の外側のほうで体重を受けるようにすることで、痛みなどの症状の軽減が見込めます。
なお、高位脛骨骨切り術は人工的に骨折を起こして骨を切る手術であるため、プレートとボルトを用いて、骨折を起こしたところをいったん固定する必要があります。その骨がしっかりと治るまでは、激しい運動や普段の生活は少し制限されます。およそ3か月〜半年は何らかの制限が必要です。
手術後、約1年が経過したら、プレートとボルトを抜く手術をします。そのまま残しておくことで特にデメリットがあるわけではありませんが、プレートとボルトの違和感があるという患者さんもいらっしゃるためです。
人工膝関節置換術
変形が進んで関節の表面の軟骨がなくなってしまい、ほかの治療法ではあまり効果が見込めないという場合、人工の膝関節に置き換える手術である、人工膝関節置換術を検討します。最近ではすり減っている内側だけ人工関節にする片側置換術も行われています。
骨粗鬆症
骨粗鬆症とは、骨の量(骨量)が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。
日本には約1000万人以上の患者さんがいるといわれており、高齢化に伴ってその数は増加傾向にあります。一般的に骨粗鬆症になっても、痛みはないのが普通ですが、転倒などのちょっとしたはずみで骨折しやすくなります。骨折が生じやすい部位は、せぼね(脊椎の圧迫骨折)、手首の骨(橈骨遠位端骨折)、太ももの付け根の骨(大腿骨近位部骨折)などです。
骨折が生じると、その部分が痛くなり動けなくなります。また、背中や腰が痛くなった後に、丸くなったり身長が縮んだりします。また大腿骨近位部骨折などを受傷すると寿命が短くなるとの報告もありますし、反対側の骨折を受傷する確率が高くなるともいわれています。
原因と病態ですが、体の中の骨は新たに作られること(骨形成)と溶かして壊されること(骨吸収)を繰り返しています。骨粗鬆症は、このバランスが崩れることでおこり、骨がスカスカになってきます。骨粗鬆症は圧倒的に女性、特に閉経後の女性に多くみられ、女性ホルモンの減少や老化と関わりが深いと考えられています。予防としては、転ばないように注意する、カルシウムを十分にとる、ビタミンD、ビタミンK、リン、マグネシウムをとる、適量のタンパク質をとる禁煙し、アルコールは控えめにする運動、日光浴をする。
治療
骨粗しょう症治療の目的は、骨密度の低下を抑え、骨折を防ぐことにあります。治療の中心は薬物治療になりますが、骨粗しょう症の発病には、食事や運動などの長年の習慣も深く関わっています。そのため、薬物治療とともに食事療法や運動療法も並行して行い、骨強度を高めていくことが重要です。
骨密度を低下させない食事療法
カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなど、骨の形成に役立つ栄養素を積極的に摂りましょう。 カルシウムとビタミンDを同時に摂ることで、腸管でのカルシウム吸収率がよくなります。
また、高齢になると、食の好みが変わったり、小食になったりしてタンパク質の摂取量は不足する傾向があります。 タンパク質の摂取量が少ないと骨密度低下を助長しますので、意識して摂取しましょう。
栄養やカロリーのバランスがよい食事を規則的に摂るのが、食事療法の基本です。
カルシウム
牛乳・乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など
※ 骨粗しょう症や骨折予防のためのカルシウムの摂取推奨量は、1日700〜800㎎です。
内服薬や注射(カルシトニン製剤)などによる治療を行います。
骨折した場合は、それに応じた治療が必要です。
ビタミンD
サケ、ウナギ、サンマ、メカジキ、イサキ、カレイ、シイタケ、キクラゲ、卵などカルシウム、牛乳・乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など
ビタミンK
納豆、ホウレン草、小松菜、ニラ、ブロッコリー、サニーレタス、キャベツなどカルシウム、牛乳・乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など
控えめにしたい食品、避けたい嗜好品など
スナック菓子、インスタント食品の頻繁な摂取
アルコールの多飲
カフェインを多く含むコーヒーの多飲
タバコカルシウム、牛乳・乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など
日光浴でビタミンDがつくられる
カルシウムの吸収を助けるビタミンDは、紫外線を浴びることで体内でもつくられます。夏の直射日光を長時間浴びることは、皮膚が赤くなるなどダメージにつながりますが、適度な日光浴は骨の健康に役立ちます。
冬であれば30分〜1時間程度散歩に出かけたり、夏であれば暑さを避けて木陰で30分程度過ごすだけで十分です。 屋内で過ごす時間が長い高齢者や、美容のために過度な紫外線対策を行っている人では、ビタミンD不足が心配されます。運動をかねて積極的に外出する機会をつくって、上手に紫外線と付き合っていきましょう。
骨を強くする運動
骨は、負荷がかかるほど骨をつくる細胞が活発になり、強くなる性質があります。 散歩を日課にしたり、階段の上り下りを取り入れるなど、日常生活のなかでできるだけ運動量を増やしましょう。最近では「踵落とし」の運動も骨密度を増加させるエビデンスがあり推奨されています。骨折予防に有効な運動は、ウォーキング、ジョギング、エアロビクスなどがありますが、ご自身の体の状態にあわせて無理なく続けることが大切です。骨粗しょう症治療中の方や膝に痛みがある方は、運動を開始する前に医師に相談してください。
ここでは家の中でも手軽に行えて、骨密度低下防止に効果的な運動を紹介します。
開眼片脚立ち(ダイナミック・フラミンゴ体操)
フラミンゴのように片脚で立ちます。不安な方は壁やテーブルにつかまりながら行ってもかまいません。体重を片脚に乗せることで、両脚立ちの倍の負荷を与えることができ、骨を強くする効果があります。バランス感覚が鍛えられるので転倒予防にもなります。カルシウム、牛乳・乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、チンゲン菜、大豆製品など余裕のあるときはストレッチも追加しましょう
ふくらはぎとアキレス腱のストレッチ
壁に手をついて、体を支えながらふくらはぎとアキレス腱を伸ばします。
前に出した方の脚の膝を曲げて体重をかけていき、後ろの方の脚のふくらはぎを伸ばします。
後ろの方の脚の膝を曲げ、アキレス腱を伸ばします。片脚30〜40秒ずつを左右交互に行いましょう。
背筋を伸ばすストレッチ
<立った姿勢で>壁から20〜30cm離れて立ち、壁に沿って両手をできるだけ上の方にのばします。
<イスに座って頭のうしろで手を組み、両肘をできるだけうしろのほうに引き、胸を開きます。
骨粗鬆症の治療薬
現在、骨粗鬆症の治療薬が次々に登場し、個々の患者さんの症状や病気の進行度に応じて、選択肢が増えてきました。最近では、従来の治療薬よりも強力に骨密度増加が期待できる薬や、患者さんが継続しやすいように投与間隔や剤型(薬のかたち)に配慮したものもあります。ただし、安全にきちんと効果があらわれるようにするには、薬の用法を守る必要があります。薬によって、飲むタイミングや、注意すべき点がありますので、医師や薬剤師の指示の内容をよく確認しましょう。
骨粗鬆症の薬は大きく3つに分類されます。
(1) 骨吸収を抑制する薬
骨吸収がゆるやかになると、骨形成が追いついて新しい骨が骨の吸収された部位にきちんと埋め込まれ、骨密度の高い骨が出来上がります。 女性ホルモン製剤(エストロゲン)、ビスフォスフォネート製剤、SERM(塩酸ラロキシフェン、バゼドキシフェン酢酸塩)、カルシトニン製剤、デノスマブ
(2) 骨の形成を促進する薬
活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤、テリパラチド(副甲状腺ホルモン)
(3) その他
カルシウム製剤
骨粗鬆症治療薬で用いられる薬
・カルシウム製剤
カルシウムは骨をつくる主要な成分であり、欠かせないミネラルです。骨粗鬆症患者さんでは食事の摂取と薬の摂取量をあわせて1000mgが望ましいとされています。
・活性型ビタミンD3製剤
食事で摂取したカルシウムの腸管からの吸収を増す働きがあります。また、骨形成と骨吸収のバランスも調整します。骨粗鬆症治療では古くから使われている薬です。最近更に効果の強くなった活性型ビタミンD3製剤も使われるようになっています。
・ビタミンK2製剤
骨密度を著しく増加させませんが、骨形成を促進する作用があり骨折の予防効果が認められています。
・女性ホルモン製剤(エストロゲン)
女性ホルモンの減少に起因した骨粗鬆症に有効です。閉経期のさまざまな更年期症状を軽くし、併せて骨粗鬆症を治療する目的で用いられます。ただし副作用の点で整形外科では殆ど使われていません。
・ビスフォスフォネート製剤
破骨細胞に作用し、過剰な骨吸収を抑えることで、骨密度を増やす作用があります。 内服薬、注射剤などがあります。服用の仕方として4週間に1回、1週間に1回、1日に1回などがあります。注射は月に1回の静脈注射のボンビバ注射と1年に1回点滴静注するリクラストがあります。
・SERM(サーム:塩酸ラロキシフェン、バゼドキシフェン酢酸塩)
骨に対しては、エストロゲンと似た作用で骨密度を増加させますが、骨以外の臓器(乳房や子宮など)には影響を与えません。
・カルシトニン製剤(注射薬)
骨吸収を抑制する注射薬ですが、強い鎮痛作用も認められています。骨粗鬆症に伴う背中や腰の痛みに対して用いられます。
・テリパラチド(副甲状腺ホルモン)
新しい骨をつくる骨芽細胞を活性化させ、骨強度を高めます。骨密度が非常に低いなど骨折リスクが高い患者さんに適した薬です。現在、1日1回や週に2回患者さんが自分で注射をする皮下注射剤と、週1回医療機関で皮下注射してもらうタイプとがあります。
これらのテリパラチドの注射は、最大2年間までの注射です。
また一ヶ月に一度皮下に注射するタイプの抗スクレロスチン抗体製剤であるイベニティも最近発売されました。この注射は1年間限度ですが再開も可能です。
・デノスマブ(抗ランクル抗体薬)
破骨細胞の形成や活性化に関わるたんぱく質(LANKリガンド)に作用して、骨吸収を抑制します。6ヵ月に1回の皮下注射のため、継続しやすいというメリットがあります。
これらの薬以外にも、イプリフラボンやタンパク同化ホルモン製剤などが処方される場合もあります。
定期的に骨密度検査をお勧めします。
症状が無くても、女性は40歳を過ぎたら定期的に骨密度検診を受けましょう。
わが国では、40歳以降の女性を対象に5年刻みに骨密度の節目検診が行う自治体が多くなっています。 特に閉経後の女性は、可能であれば1年に1度検診を受けるとよいとされています。 骨密度検診は、お住まいの地域の広報誌やホームページ、保健センターに問い合わせするなどして確認できます。当院では前腕でのDEXA法で行っています。
検診で骨密度が減っていると判定された人は、指示された時期に医療機関で診断を受け、治療の時期を逃さないようにしましょう。
特に閉経後の女性には、整形外科医の定期的な検診をお勧めします。
スポ−ツ外傷 障害
スポ−ツでの外傷(捻挫、骨折、脱臼、挫傷など)、野球肩、野球肘、テニス肘、ゴルフ肘、腰椎分離症、膝半月板損傷、成長期でのスポーツ疾患(オスグッド・シュラッター病など)じん帯損傷、肉ばなれ、アキレス腱断裂等。治療や復帰へのアドバイスをします。
また、骨折に対しては超音波骨折治療機を使って早期復帰を目指します。
専門医による治療が必要と判断したら、種目による専門医を可能な限り紹介いたします。
関節リウマチについて
関節リウマチとは、関節の内側を覆っている滑膜に炎症を起こし関節の痛み・腫れ・こわばり感などを起こす自己免疫疾患です。
原因
自己免疫性疾患とは、自分の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気を指します。
進行すると関節周囲の軟骨・骨が破壊され、関節の変形、脱臼、癒合などを引き起こし日常動作や生活が損なわれてしまいます。
30〜50歳代の女性に多いとされていますが、どの年齢層でも発症する可能性があります。
免疫の異常は、遺伝的な要因とウイルス感染などの外的な要因が重なることで起こると考えられています。しかし実際に病気として遺伝する確率はそれ程高くはありません。
また外的な要因として、喫煙などの環境因子が関節リウマチの発症や症状の悪化に関係していると言われています。
症状
関節リウマチの主な症状は、関節の痛み・腫れ、朝に起こる関節のこわばりです。
朝のこわばりは更年期の女性や他の病気でもみられることがありますが、関節リウマチでは通常1時間以上と長時間続くことが特徴です。
また全身の多くの関節に痛みが生じる可能性があります。特に手首や手指の関節に起こることが多く、ほとんどの場合、ひとつの関節にとどまりません。
関節の炎症が長期間続くと関節の軟骨・骨が少しずつ破壊され、関節の変形や脱臼、関節がかたくこわばる強直、関節の曲げ伸ばしが難しくなる拘縮を引き起こし日常生活に大きな支障をきたします。
また炎症が強ければ発熱、全身倦怠感、体重減少、食欲不振といった全身症状を伴うこともあります。
その他、リウマトイド結節と呼ばれる皮下のしこりや間質性肺炎など関節外に症状が現れる場合や、その他の自己免疫性疾患を合併することもあります。
検査・診断
関節リウマチの検査には、血液検査や画像検査があります。これらの検査結果と症状を組み合わせて診断します。
血液検査
関節リウマチになると血液検査において、赤沈・CRPという体内の炎症反応を示す値や軟骨の破壊に関係しているMMP-3という値が高くなります。
またリウマチ因子や抗CCP抗体という値が高くなることが多く診断に有効です。しかし血液検査が陽性でも必ず関節リウマチというわけではありません。
特にリウマトイド因子は健康な方でも陽性になることが多いため注意が必要です。またリウマトイド因子や抗CCP抗体が陰性の関節リウマチもあります。
症状や経過から総合的に診断する必要があります。
治療
関節リウマチの治療の原則は基礎療法・薬物療法・リハビリテーション・手術療法です。
治療の選択は、病気の重症度・合併症・日常生活の不自由さなどを総合的に判断して行います。
関節リウマチの関節の破壊は、発症して2年以内に急速に進行することがわかっています。
一度破壊された軟骨・骨・関節は元に戻すことができないので、早期診断・早期治療が重要になります。
まず関節リウマチという病気を理解し、適度な運動と安静、食生活など規則正しい生活を送ることや禁煙指導も大切です。
薬物療法
薬物療法は治療の中心ですが、DMARS(疾患修飾性抗リウマチ薬)・MTX(免疫抑制剤)・生物学的製剤・ステロイド剤・非ステロイド性消炎鎮痛薬などの薬剤が使用されますが、どの薬剤にも副作用や合併症を起こす危険があります。
当院では、関節リウマチの診断に迷ったり、活動性が強かったりする場合には、生物学的製剤による治療も考慮してリウマチ膠原病専門医に紹介して診断・治療をお願いしております。
診断確定して症状が安定してきたら、当院に逆紹介していただき治療を継続させていただいています。
リハビリテーション
関節の機能(関節の動く範囲と筋力)を保つためのリハビリテーションも有用です。
関節の変形や保護、日常動作の助けのために頸椎カラーや足底版などの装具を使用することもあります。
手術療法
薬物療法やリハビリテーションによる治療をおこなっても、変形等による関節の障害が残ってしまう場合、人工関節置換術などの手術療法が選択されることもあります。